暫定リストとは、各国が世界遺産登録に先立ち、ユネスコの世界遺産センターに提出する物件リストのこと。暫定リストに登録された遺産から世界遺産として推薦されるという仕組みとなっています。いわば「世界遺産候補」であり、世界遺産の一歩手前といった存在。
今回は暫定リストを世界遺産マニアが分かりやすく解説。これを読めば、暫定リストについて具体的に理解できること間違いなし!
暫定リスト=世界遺産候補?
そもそも世界遺産リストに登録されているのが「世界遺産」であり、世界遺産として登録できるのは、事前に各国がユネスコの世界遺産センターに提出する「暫定リスト」と呼ばれる一覧表に登録された物件のみが対象となっています。とはいえ、これはあくまでも審査される前の物件であり、世界遺産として認定されるのに必要な「顕著な普遍的な価値」が認められたものだけでなく、暫定リストに載せたまま、ずっと推薦されず、お蔵入りとなっているものも。
基本的には提出から10年以内に正式な登録を申請すべきとはされているものの、そのあたりに明確なルールはなく、中には何十年も放置されていたり、世界遺産委員会で「不登録」や「登録延期」の決議を受けたものもあったりします。日本だと、1992年に暫定リストとして登録された「武家の古都・鎌倉」は、2013年に事前に審査された際に「不登録」が勧告され、以降はずっと暫定リストのまま。
よって、暫定リストとはいうものの、世界遺産に近いものもあれば、登録がかなり難しいものあったりして、すべてが「世界遺産候補」というのは少し苦しい側面もありますね。
日本にはどんな暫定リストがある?
日本の場合、暫定リストの登録は文化庁、環境省、林野庁が担当しています。一方、そこから世界遺産に推薦するのは結構難しく、上記3省庁に外務省、国土交通省、経済産業省、宮内庁、内閣官房を加えた「世界遺産条約関係省庁連絡会議」によって決められ、その後、閣議で了承を得てから決定するという仕組み。
現在の日本には3つの新規候補に1つの拡大登録の物件が暫定リストに登録されています。これらもいずれかは、世界遺産となる日も来るのでしょうか?
武家の古都・鎌倉/1992年登録
鎌倉は神奈川県の南西部・相模湾に面していて、周囲はすべて山々に囲まれた土地であり、「天然の要塞」とも呼べる場所。ここは12世紀から150年以上に渡って武家政権が築かれ、 鎌倉時代は政治、経済、文化の中心地でもありました。
江戸は東京となり、近代都市となったものの、 鎌倉は武家の文化がそのまま残っているという点で評価されました。
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彦根城/1992年登録
琵琶湖の東岸に位置する彦根城は、17世紀初頭に建造された城郭建築の黄金期を示す城。ここは丘の上に築かれた城で、2つの堀で囲まれています。
城は曲輪(城の周囲の土塁や石垣の構造)が現在でもよく残っていて、日本でも数少ない、江戸時代から保存されている貴重な現存天守を持つのが特徴。そして、櫓や門、内堀や外堀も残っていて、城の北側には洛楽園と玄宮園といった大名庭園も見られます。
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飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群/2007年
現在の奈良県中西部にある 明日香村、桜井市、橿原市に残る文化財で構成されていて、これらは一般的に飛鳥時代(592〜710年)と呼ばれる時代の建造物。
ここは日本でも最初期の「都」として機能した都市で、遺跡は主に天皇や皇族が暮らした宮殿跡を含め、それらに関連した建造物が残っています。キトラ古墳の壁画などは中国や朝鮮半島などからの影響も見られ、東アジアとの交流の足跡も残っています。
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平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―(拡大登録)/2012年登録
一般的に「平泉」というと岩手県南部の平泉町のこと。ここは12世紀に奥州藤原氏の都であり、現在は平泉を代表する寺院である中尊寺は現存しているのですが、かつて点在していた寺院や庭園などはほとんど残っていません。
町の周囲にはまだまだ遺跡がたくさん残っていて、現在は拡大登録を目指しています。構成資産としては「柳之御所遺跡」や、坂上田村麻呂の伝説が残る「達谷窟」、「白鳥舘遺跡」、「長者ヶ原廃寺跡」などが含まれる予定。
今となったら微妙な遺産も含まれているが、暫定リストから世界遺産は誕生する
暫定リストはあくまでも「暫定」であるため、その国が独自で推薦できるもの。しかし、それを客観的に判断するのは、年に一度開催される世界遺産委員会であり、その価値が認められれば、晴れて世界遺産となるのです。
よって、暫定リストは世界遺産候補であるのですが、少なくともリストに登録された時点で国の「宝」とは認められているもの。鎌倉などはあくまでも世界遺産としての他国から価値が認められなかっただけであって、我々日本人からすれば、世界遺産にならずとも大事にしていきたい遺産でもありますけどね。
※こちらの内容は、世界遺産マニアの調査によって導き出した考察です。データに関しては媒体によって解釈が異なるので、その点はご了承下さい。