「日本のうどんは、なんとベトナム中部まで伝来した」…そんなトンデモ説がもはや常識というレベルで、世界遺産ホイアンを訪れる日本人はほぼ知っている。そんな彼らが必ず食するのが、ホイアン名物の汁なし麺の「カオラウ」。実はこれは伊勢名物の伊勢うどんが発祥という説があるのだが、現物はどちらかというと「汁なしラーメン」に近い。そんなカオラウとはどんなグルメなのか?
今回は、ベトナムの世界遺産・ホイアンの古い町並みで味わいたいグルメ「カオラウ」を紹介。世界遺産巡りのついでに味わってほしい「世界遺産級の激ウマ・グルメ」を解説していこう。
世界遺産「ホイアンの古い町並み」は日本の関係性が深い?
ホイアンは、ベトナムの中央部・クアンナム省にあり、トゥボン川の河口近くにある古い港街。世界遺産としては、旧市街を中心であり、おもにイエローに塗られた家々が並ぶ景観が名物だ。そして、日本のマスコミの売り出し方が非常に上手で、現在は女子旅に人気の街となっている。
満月になる旧暦の14日の日には町から電灯が消え、ランタンだけ灯す「 ランタン祭り」が行われることでも有名なのだが、あまりにもホイアン=ランタンで有名になったので、観光客向けにほぼ毎晩ランタンはどこかしらで照らされているという…。
まぁ、それは置いておいて、実は16世紀後半には既に日本人がこの地に来航していて、1601年からは朱印状による朱印船貿易を約30年間行ったことから、かつては「日本人街」が存在していた。しかし、1639年に江戸幕府が鎖国を決定すると、日本人はこの地を去ったとされている。
短い間だが、その証拠は現在も残っている!今でも旧市街に残る「来遠橋」は、「日本橋」と呼ばれ、かつて我々の先祖がこの橋を建造したという伝説が残されているほど。ベトナムの人々にとっては、よほどインパクトがあったのでしょうか?うーん、資料があまり残っていないけど、壮絶なドラマがあったんでしょうね(映画化できるくらい)。
「ホイアンの古い町並み」の詳細はこちら
伊勢商人が伝えた伊勢うどんをベトナム風にアレンジされたのが「カオラウ」?
そして、日越友好の証として残っているのは建築物だけじゃない!伊勢国の貿易家であった角屋七郎兵衛(かどやしちろうべえ、1610〜1672年)が、この地を訪れると、すぐに鎖国となったために彼はホイアンの日本人街に暮らすようになったという説もあるのだ。帰りたくとも帰れない…そのため、故郷を懐かしむために作ったのが「伊勢うどん」というエピソードも。
しかし、彼が亡くなってから3世紀ほど…その伊勢うどんがベトナム風にアレンジされ、今も残っているというではないですか。これは日本人としては食べないわけにはいかないですね。
とはいえ、この説は日本人以外は知らないので、カフェだらけのホイアンでカオラウの店だけを捜索しようとすると、少し大変かも?まぁ、食堂で食べるのは難易度が高いと思うので、外国人向けのレストランに行けば大体用意しているでしょう。今回は老舗レストランで注文してみました。
それでは、400年にかけて伊勢うどんから進化したベトナム料理がどんな傑作なのか…高まる期待とドキドキを抑えながら、小さな小皿にのせられた、その姿をじっと見つめてる。
まー、全体的にうどんのようだが…麺の上にはチャーシュー、揚げ餅、もやし、香草などがのっていて、もはやファミレスでよく見る「サラダうどん」のようだ。さすがに太麺をタレを絡めて食べるというシンプルな伊勢うどんと親子関係にあるというのは無理がある!
とはいえ、さすがに400年の時が経過しているだけあって、見た目の変化は仕方ない。問題は味だ!食べ方としては丼の底で溜まった、ベトナム風の魚醤・ヌクマムをベースした甘辛タレを豪快にかき混ぜて食べる。…う、うーん、麺が柔らかくなく、コシが強い。これは伊勢うどんというよりも、中華麺をラーメンのタレでかき混ぜて食べる「油そば」や「まぜそば」に近いなぁ。「うどん」と思うと、正直違和感を覚えるし、我々のうどんという「アイデンティティ」が揺らいでくる。
しかし…もう何口か食べ進めると、米粉の麺ではあるものの、明らかにうどんが持つグルテンのような弾力を持っていて、フォーとは食感が全く異なるというのが分かっている。麺はモチモチでシコシコ…あれ?これは、まさしく讃岐うどんのようなコシの強い「うどん」ではないか?ある説によると、ホイアンの井戸水で麺を作ると、非常にコシが出るようになっていて、この麺の食感はここでしか出せないそう。
なるほど!これは日本人が麺などに求めている「コシ」だ。彼らはここに住み着いたという理由も頷ける(メインの目的は交易のためであるとは思うが…)。そして、ベトナムの食べるラー油である「サテ」をかけて味変すると、今度はベトナム麺らしく、味が締まり、エスニック風味がグッとアップする。なんと一度で二度おいしい…飽きも来ないし、非常に考えられた逸品であろう。
…これは「世界遺産級」の味わいだ!
カオラウは日本のうどん+ベトナム麺の良い所がミックス!
とはいえ、「伊勢うどん・カオラウ進化説」はあくまでも通説であり、確実な情報はありません。食べ物なのでそこは仕方ないところ。しかし、一度食べていただければわかる思うのだが、食感は明らかに伊勢うどんのそれとは異なり、讃岐うどんのようなコシが強いもの。カオラウはその日本のうどんの良さを追求した麺を、ベトナム麺のスタイルでいただき、さらには味変というスタイルを入れることで「良いとこ取り」になった料理なのではないだろうか?
むしろ、伊勢うどんがベトナムで進化していった背景なども思いながらいただくと、より感慨深いものになることまちがいなし!
世界遺産のついでに世界遺産級のグルメも同時に楽しんでみてはいかが?
※こちらの内容は、あくまでも過去に現地を訪れた際に体験したものであり、最新情報はご自身でご確認ください。