よく世界遺産の中で登場する「文化的景観」。これはどういった景観なのでしょうか?そして、なぜ世界遺産には文化的景観の概念が必要なのか?
今回は文化的景観を世界遺産マニアが分かりやすく解説。これを読めば、文化的景観について具体的に理解できること間違いなし!
文化的景観とは?
文化的景観とは、自然の景観と人工の景観の両方が含まれた遺産を指すことが多い傾向にあるのが特徴。おもに文化的景観で登録される世界遺産は、文化遺産には分類されるのですが、「文化遺産と自然遺産の境界に位置する遺産」といえるでしょう。人間が自然環境の中で、文化活動や経済活動など、さまざまな影響を受けながら進化してきたことを示したものです。
文化的景観は、3つのカテゴリーに分類されます。
意匠された景観
人によってデザインされて作られた景観。例えば、庭園や公園、宗教によって作り出された空間など。
有機的に進化する景観
自然環境に対応して作られた景観。例えば、既に役目を終わってしまったけど、残り続けているものは「残存する景観」、現代社会においても進化し続けるのが 「継続する景観」。
関連する景観
自然がそこに住む民族に影響を与え、宗教や芸術、文学などと密接に関連する景観。例えば、自然の地形の上に築かれ、その環境によって生まれた文学や音楽などが盛んな町がこれに当てはまります。
具体的に文化的景観で登録されている世界遺産は?
初めて文化的景観として登録されたのが、ニュージーランド「トンガリロ国立公園」。これは1990年に自然遺産として登録されていたもの。しかし、後にマオリの聖地として自然との文化的なつながりが評価され、1993年に文化遺産の価値を含んだ複合遺産へとなりました。文化的景観とは、より柔軟に文化遺産を捉える時に役立つ評価基準なのです。
また、文化的景観として登録される世界遺産は、「人類と環境との交流を示す顕著な見本」として登録基準(v)で登録されていることが多い傾向に。
以下は一部ではありますが、文化的景観として代表的なものを挙げてみました。おもに、農作地や公園、産業遺産などが評価されることが多め。
日本
・紀伊山地の霊場と参詣道 2004年登録
・石見銀山遺跡とその文化的景観 2006年登録
アジア
・紅河ハニ棚田群の文化的景観(中国) 2013年登録
・シンガポール植物園(シンガポール) 2015年登録
・バリ州の文化的景観 : トリ・ヒタ・カラナの哲学を表現したスバック・システム(インドネシア) 2012年登録
・聖なる山スライマン=トー(キルギス) 2009年登録
・チャンアンの景観関連遺産(ベトナム) 2014年登録
ヨーロッパ
・キューの王宮植物園群(イギリス) 2003年登録
・レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観(スイス・イタリア) 2008年登録
・ラヴォーのブドウ段々畑(スイス) 2007年登録
・トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観(ハンガリー) 2002年登録
・シュリー・シュル・ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷(フランス) 2000年登録
オセアニアと南北アメリカ
・ウルル=カタ・ジュタ国立公園(オーストラリア) 1987年
・トンガリロ国立公園(ニュージーランド) 1998年
・テキーラの古い産業施設群とリュウゼツランの景観(メキシコ) 2006年登録
・コロンビアのコーヒー産地の文化的景観(コロンビア) 2011年登録
・リオデジャネイロ:山と海との間のカリオカの景観群(ブラジル) 2012年登録
世界遺産マニアの結論と感想
いろいろと解説したものの、結論としては「自然と人間が共存する風景」として覚えてもらえればOKかなと思います。人間が傲慢に自然を支配せず、自然をリスペクトしつつもその恩恵を預かるシステムが実現されている場所といったところでしょうか。環境問題が叫ばれる世の中ですが、文化的景観のように自然とともに生きる方法を人はもっと先人たちから学ぶべきなのかもしれませんね…。
※写真はイメージです
※こちらの内容は、世界遺産マニアの調査によって導き出した考察です。