イランの世界遺産「ペルシャ式庭園」とは?エラム庭園とフィン庭園を含めて世界遺産マニアが解説

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登録区分文化遺産
登録基準(1),(2),(3),(4),(6)
登録年2011年

ペルシャ庭園は、紀元前6世紀のアケメネス朝のキュロス2世の時代に築かれた庭園にルーツを持つほどに古いもので、イラン各地に残る9つの庭園が登録。これらはゾロアスター教の要素を象徴する構造となっていて、インドやスペインなどの庭園デザインにも影響を与えています。

ここではペルシャ式庭園がなぜ世界遺産なのか、世界遺産マニアが分かりやすく解説。これを読めば、ペルシャ式庭園について詳しくなること間違いなし!

目次

ペルシャ式庭園とは?

フィン庭園/ペルシャ式庭園
画像素材:shutterstock

イラン各地に残る9つの庭園をここでは「ペルシャ式庭園」としていて、紀元前6世紀のアケメネス朝の初代皇帝キュロス2世が建造した庭園がルーツとされるもの。これらは乾燥地帯であるイランにおいて、何世紀にも渡って発展してきました。

庭園はかつてイラン各地で信仰されていたゾロアスター教で重視している「空」「大地」「水」「諸空物」に基づいて設計されていて、ペルシャで発展した芸術、哲学、宗教感が表れています。そして、ペルシャ職人の庭園設計の技術力の高さを示していて、まさにエデン、地上のパラダイスの概念を具現化したもの。

各庭園は庭の敷地を「チャハルバーグ(四分庭園)」という、四分割する様式で築かれていて、4つの川と4分割された円が世界そのものを示し、これこそがエデンを表すというもの。乾燥地であるにもかかわらず、水源から水を引いてきて、それを巡回させるというシステムを作り上げ、独自の人工的な自然を築くという、さまざまな建築技術の結晶でもあるのです。

登録されている主な構成遺産

パサルガダエ庭園

パサルガダエ庭園/ペルシャ式庭園
画像素材:shutterstock

パサルガダエは「ペルシャ人の本営」という意味で、現在のイラン南西部のファールス州に築かれた都でした。アケメネス朝ペルシャの最初の首都となった場所でもあり、その王朝を開いたのがキュロス2世。かつての宮殿と庭園は現在も区画だけは残っています。庭園を四分割するという「チャハルバーグ(四分庭園)」がこの頃から見られるというのも特徴。

エラム庭園

エラム庭園/ペルシャ式庭園
画像素材:shutterstock

ファールス州の州都シーラーズ中心部に残る庭園。「楽園の庭」という意味があり、12世紀のセルジューク朝時代に建造されたものが起源。14世紀の有名な詩人・ハーフェズもこの庭園の美しさについて触れています。

ここは18世紀のザンド朝時代に豪族の住居となると、19世紀のガージャール朝時代は王族も利用するようになり、豪華絢爛な庭園に。現在はシーラーズ大学が管理していて庭園全体が博物館となっています。

チェヘル・ソトゥーン庭園

チェヘル・ソトゥーン庭園/ペルシャ式庭園
画像素材:shutterstock

イラン中部の古都エスファハーンにある庭園。17世紀のサファヴィー朝時代に建造され、チェヘル・ソトゥーンとは「四十本の柱」という意味で、宮殿は20本の細い木製の柱が並び、水面に映ると合計で40本に見えるということからこの名が付けられました。ここはサファヴィー朝のシャー(王)、アッバース2世の娯楽用の施設として使用され、宮殿には豪華なフレスコ画やタイルが施されています。

フィン庭園

フィン庭園/ペルシャ式庭園
画像素材:shutterstock

首都テヘランとエスファハーンの間に位置する砂漠のオアシス都市・カーシャーンの郊外にある庭園。現在の庭園はサファヴィー朝のアッバース1世の時代に築かれ、19世紀前半まで拡張工事が行われたものの、その後、長らく放置されました。

イトスギが多く植えられた園内にはプールや噴水が多く配されていますが、それらは機械を使用せずに今でも利用できるというほど。

ドーラト・アーバード庭園

ドーラト・アーバード庭園/ペルシャ式庭園
画像素材:shutterstock

イラン中央部のオアシス都市ヤズドにある庭園。特に園内に築かれたバードギール(採風塔)は高さ33.8mと世界最大。もともと庭園には6つの塔があったとされますが、20世紀に一つだけ再建されました。

ここはザンド朝時代の18世紀半に建造された庭園で、当時のヤズドを治めていた太守がカナートと呼ばれる地下水システムを利用して建造した、事務所兼宮殿でした。しかし、現在は井戸を利用しているため、この庭園に限ってはカナートは利用されていません。

ペルシャ式庭園はどんな理由で世界遺産に登録されているの?

エラム庭園
画像素材:shutterstock

ペルシャ式庭園が評価されたのが、以下の点。

登録基準(i)
ペルシャ式庭園は、ほとんどがチャハルバーグが見られ、革新的な技術力と水管理システム、庭園のレイアウトなど、地上の楽園とも呼ぶべき、人類の傑作であるという点。

登録基準(ii)
ペルシャ式庭園は、パラダイスという言葉が「美しい庭園」という意味のペルシャ語から由来するということもあり、西アジア、アラブ諸国、さらにヨーロッパの庭園デザインに大いに影響を与えたということ。

登録基準(iii)
ペルシャ式庭園は、邸宅や宮殿、墓、公園、宗教施設などが合わさり、2000年以上に渡ってさまざまな役割を果たした文化伝統が見られるものであるという点。

登録基準(iv)
ペルシャ式庭園は、庭園のレイアウトの原点的存在で、自然と人工が入り混じり、ペルシャのシンボル的な庭園デザインの例であるということ。

登録基準(vi)
ペルシャ式庭園は、サアディーやハーフェズといったペルシャの詩人の作品などに登場し、ここは絨毯やテキスタイル、ミニアチュール(細密画)、音楽、建築などのモチーフともなるほどで、チャハルバーグは古代のペルシャの人々の宇宙観が見られるという点。

世界遺産マニアの結論と感想

ペルシャ式庭園は、2000年以上に渡って築かれたもので、乾燥地域の多いペルシャの地で「パラダイス」という地上の楽園を人間の手によって築くことで、これが西アジアからヨーロッパまでさまざまな庭園のルーツになったという点で評価されています。そして、ペルシャ文学にも多く登場し、彼らの宇宙観もこの庭園に示されているというのもポイント。

実は、チャハル・バーグはインドの世界遺産「タージ・マハル」にも採用されていて、これを利用することによって霊廟に遠近感が加わり、より神々しく見えるというのが特徴。ペルシャ式庭園は、人類の偉大なる発明なのです。

※こちらの内容は、世界遺産マニアの調査によって導き出した考察です。データに関しては媒体によって解釈が異なるので、その点はご了承下さい。

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この記事を書いた人

世界遺産一筋20年以上!遺跡を求めて世界を縦横無尽で駆け抜ける、生粋の世界遺産マニアです。そんな「世界遺産マニア」が運営するこちらのサイトは1100以上もある遺産の徹底紹介からおもしろネタまで語り尽くすサイト。世界遺産検定一級取得済。

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