危機遺産とは、「危機にさらされている世界遺産リスト(危機遺産リスト)」に登録されている遺産を指します。つまり、存続が危うい世界遺産のこと。
そんな危機遺産を世界遺産マニアが分かりやすく解説。登録されている遺産のリストも加えました。これを読めば、 危機遺産について詳しくなること間違いなし!
危機遺産とはどういうもの?
危機遺産とは、「危機にさらされている世界遺産リスト(危機遺産リスト)」に登録されている遺産のこと。つまり、世界遺産リストに登録されている遺産が、明確な危険にさらされていて、なんとか改善可能であり、世界遺産条約に基づく援助が要請されている場合のみ、その遺産をリストに加えることができるのです。
一旦、「危機遺産」に登録されると、存在自体怪しくなるというイメージもありますが、登録されると世界遺産基金が活用できたり、世界遺産センターや各国の政府、民間機関などから財政的援助や技術援助を受けることができるのがメリット。
危機遺産の登録はメリットでもあるけど、価値がなくなると一気に抹消されることも!
「緊急的登録推薦」で、危機遺産でも一気に世界遺産になれることも。例えば、危機に直面している遺産は、手続きを取らずに「危機遺産」として世界遺産に登録できるという裏技もあるのです。
しかし、世界遺産としての価値(普遍的価値)がなくなったという場合は、危機遺産リストに入ることもなく、抹消されることも……。例えば、オマーンの「アラビアオリックスの保護地区」は、政府が天然資源採取のために保護地区を90%削減する政策をとったことで、2007年にリストから抹消されたことも!
危機遺産に登録されている遺産リスト
それでは、具体的にどんな遺産が危機遺産に登録されているか、見てみましょう。2024年時点で合計33か国で56件登録されています。
ちなみに、ほとんどが「治安」と「紛争」、「密猟」、「森林伐採」などが登録理由。
アジア
・エルサレムの旧市街とその城壁群/エルサレム(ヨルダンによる申請)
登録年:1982年
・古都ザビード/イエメン
登録年:2000年
・ジャームのミナレットと考古遺跡群/アフガニスタン
登録年:2002年
・バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群/アフガニスタン
登録年:2003年
・アッシュール (カラート・シャルガート)/イラク
登録年:2003年
・都市遺跡サーマッラー/イラク
登録年:2007年
・スマトラの熱帯雨林遺産/インドネシア
登録年:2011年
・古代都市ダマスカス/シリア
登録年:2013年
・古代都市ボスラ/シリア
登録年:2013年
・パルミラ遺跡/シリア
登録年:2013年
・古代都市アレッポ/シリア
登録年:2013年
・クラック・デ・シュヴァリエとカラット・サラーフ・アッディーン/シリア
登録年:2013年
・シリア北部の古代村落群/シリア
登録年:2013年
・パレスチナ:オリーブとワインの地 – エルサレム南部バティールの文化的景観/パレスチナ
登録年:2014年
・サナア旧市街/イエメン
登録年:2015年
・シバームの旧城壁都市/イエメン
登録年:2015年
・ハトラ/イラク
登録年:2015年
・シャフリサブス歴史地区/ウズベキスタン
登録年:2016年
・ヘブロン(アル=ハリール)旧市街/パレスチナ
登録年:2017年
・マアリブの古代サバア王国記念建造物群/イエメン
登録年:2023年
・トリポリのラシッド・カラミ国際見本市/レバノン
登録年:2023年
・聖ヒラリオン修道院 / テル・ウンム・アメル/パレスチナ
登録年:2024年
ヨーロッパ
・リヴィウ歴史地区/ウクライナ
登録年:1998年
・コソボの中世建造物群/セルビア
登録年:2006年
・ウィーン歴史地区/オーストリア
登録年:2017年
・ロシア・モンタナの鉱山景観/ルーマニア
登録年:2021年
・オデーサ(オデッサ)歴史地区/ウクライナ
登録年:2023年
・キエフの聖ソフィア大聖堂と関連する修道院群及びキエフ・ペチェールシク大修道院
登録年:2023年
・リヴィウ歴史地区群
登録年:2023年
アフリカ
・ニンバ山厳正自然保護区/ギニア・コートジボワール
登録年:1992年
・アイル・テネレ自然保護区/ニジェール
登録年:1992年
・ヴィルンガ国立公園/コンゴ民主共和国
登録年:1994年
・ガランバ国立公園/コンゴ民主共和国
登録年:1996年
・オカピ野生生物保護区/コンゴ民主共和国
登録年:1997年
・カフジ=ビエガ国立公園/コンゴ民主共和国
登録年:1997年
・マノヴォ=グンダ・サン・フローリス国立公園/中央アフリカ
登録年:1997年
・アブ・メナ/エジプト
登録年:1979年
・アツィナナナの雨林/マダガスカル
登録年:2010年
・アスキアの墓/マリ
登録年:2012年
・トンブクトゥ/マリ
登録年:2012年
・セルース猟獣保護区/タンザニア
登録年:2014年
・ジェンネ旧市街/マリ
登録年:2016年
・レプティス・マグナの考古遺跡/リビア
登録年:2016年
・サブラタの考古遺跡/リビア
登録年:2016年
・タドラルト・アカクスの岩絵遺跡群/リビア
登録年:2016年
・ガダミスの旧市街/リビア
登録年:2016年
・トゥルカナ湖国立公園群/ケニア
登録年:2018年
オセアニア
・東レンネル/ソロモン諸島
登録年:2013年
・ナンマトル:東ミクロネシアの祭祀センター/ミクロネシア
登録年:2016年
南北アメリカ
・チャン・チャン遺跡地帯/ペルー
登録年:1986年
・コロとその港/ベネズエラ
登録年:2005年
・エバーグレーズ国立公園/アメリカ合衆国
登録年:2010年
・リオ・プラタノ生物圏保護区/ホンジュラス
登録年:2011年
・パナマのカリブ海側の要塞群/パナマ
登録年:2012年
・ポトシ市街/ボリビア
登録年:2014年
・カリフォルニア湾の島々と自然保護区群/メキシコ
登録年:2019年
世界遺産マニアの結論と感想
ある意味、危機遺産とは世界遺産の裏の姿でもありますね。理想では「遺産を保護する」という意識があっても、予算がかかるし、紛争も起きたりするし、実際はそんな簡単ではない…ということですね。もちろん、あえて「危機遺産」として登録して、危機を逃れるという裏技を使えるというのもアリなので、各国はぜひ活用してほしい感じですね。
ただ密猟や森林伐採など、自分の利益だけ求めている人が増えると、世界遺産もどんどんと減っていくので、環境問題と同じく、遺産についても意識が大事な時代なのかもしれません。
※写真はイメージです
※こちらの内容は、世界遺産マニアの調査によって導き出した考察です。