遺跡や歴史的建造物が多く登録されているイメージがある世界遺産ですが、その中でも地域に根付いた産業の姿を残す「産業遺産」も登録されることもあるんですよ。特に1990年以降は積極的に産業遺産を登録していて、その数は増加中!
それもあって、現在は鉱業や製造業、農業、鉄道、運河…などなど、さまざまな産業遺産が登録されています。どんな遺産があるのか、有名なものからピックアップして紹介していきましょう。
ヴィエリチカ・ボフニア王立岩塩坑/ポーランド
かつてポーランド王国の首都であったクラクフから南東へ約15km。ヴィエリチカの岩塩坑は岩塩鉱床という、かつての塩湖だった場所の地下に塩水が溜まって形成される地形を利用したもので、ここは13世紀〜20世紀後半まで稼働し、ヨーロッパでも最初期に造られた岩塩坑があった場所。
ここで採掘される塩はポーランドにおいては重要な産業となり、塩坑道はヨーロッパの採掘技術の発展が見られるもの。そして、地下にある礼拝堂では塩で作られた芸術作品などが見られるのが特徴です。
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コーンウォールと西デヴォンの鉱山景観/イギリス
イギリス南西部のコーンウォールと西デヴォン。16世紀以降はスズの生産地となり、19世紀初頭には蒸気機関で革命が起こり、最新技術が導入。銅とスズは英国の産業と商業において需要が高まっていき、19世紀になると世界で供給される銅の3分の2がこの地で採掘されることになりました。
しかし、1860年に銅が枯渇すると、スズが中心とはなったものの、次第に衰退。世界遺産としては10のエリアで構成され、鉱山や機関車、港、運河、鉄道、路面電車など、鉱業に関する遺構が各地に残っています。
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石見銀山遺跡とその文化的景観/日本
島根県大田市にある石見銀山は、戦国時代後期から江戸時代前期まで繁栄した日本最大の銀山の跡地。ここは1526年に銀脈が発見されると、博多の豪商・神屋寿禎(じゅてい)によって開発が進められ、1620〜1640年には年間で約40tもの銀が生産されました。これは世界で産出する銀の3分の1というほどの量。
現在の石見銀山は、標高600mもの山々の間の渓谷沿いに遺跡が残っています。ここは銀鉱山跡と鉱山町、街道(石見銀山街道)、港と港町の3つのカテゴリーに分けれていて、14もの構成資産が点在。
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ポトシ市街/ボリビア
ポトシはボリビアの南部、アンデス山脈の盆地に築かれた都市。ポトシ県の行政府所在地であり、標高はなんと4090mと人が住む場所としては最も高い位置にある都市の一つ。こんな高所に街が建造されたのは、16世紀前半に「セロ・リコ(富の山)」と名付けられた銀鉱山が発見されてから。
街の周囲には水路と人造湖が築かれ、中心部には貴族の邸宅から労働者の居住区など、当時建造されたものが現在でも残っているという点で評価されています。
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エッセンのツォルフェアアイン炭鉱業遺産群/ドイツ
エッセンは、ドイツ西部・ノルトライン=ヴェストファーレン州にある都市で、ヨーロッパを代表する工業地帯に属する都市。ドイツ関税同盟(ツォルフェアアイン)によって築かれた炭鉱は、かつて世界最大規模の採掘量を誇り、今でも20世紀に建造されたモダニズム建築が残されています。
これらは150年に渡る鉱業の発展と衰退を示す産業遺産として登録。
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アイアンブリッジ峡谷/イギリス
アイアンブリッジの渓谷はイングランド西部のシュロップシャー・テルフォード郊外にあり、セヴァーン川沿いに位置する渓谷のこと。登録されているのは、世界初の鉄橋(アイアンブリッジ)を中心としたセヴァーン渓谷沿いに5.5平方kmの範囲。
1709年に工場主エイブラハム・ダービー1世によって銑鉄の大量生産が可能となると、彼の孫が全長60mの鉄橋をこの地に建設。ここは産業革命の技術と建築の発展に大きな影響を与えました。
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明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業/日本
明治の日本が飛躍的に近代化に成功したのは、西洋の技術を急速的に取り入れた産業革命によるもの。日本各地には、明治時代の産業遺産が多く残っていて、鋼業・造船業・石炭鉱業の発展を示しています。
登録された遺産は、九州を中心としていますが、全国8県11ヶ所にまたがっています。北から岩手県、静岡県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県に点在する、23もの構成資産をシリアル・ノミネーション(複数の遺産を歴史や文化など一つのテーマで登録するもの)として登録。
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富岡製糸場と絹産業遺産群/日本
明治維新後の日本では、世界への輸出品として質の良い生糸の増産が求められていました。そこで、政府主導の製糸場の建設地として選ばれたのが群馬県の富岡。フランスの建築技術を駆使して作られ、生糸を大量生産していた官営模範工場である「富岡製糸場」により、養蚕業と製糸業の技術が飛躍的に発展。これにより、日本の絹産業の近代化に成功することになるのです。
他にも風を利用することで蚕を生産する「清涼育」が行われた「田島弥平旧宅」、養蚕の教育の場であった「高山社跡」、冷風を利用して蚕の卵を冷蔵するという施設「荒船風穴」など、明治初期の絹産業関連の施設も登録されています。
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コロンビアのコーヒー産地の文化的景観/コロンビア
コロンビアといえば、世界でも最高品質のコーヒー農園を持つことで有名。北西部にある農業地帯・パイサ地域、カルダス県、キンディオ県、リサラルダ県にまたがって、18の都市と6つの農業地帯が登録されています。
この地では100年を越えるコーヒー農園の伝統を示し、傾斜地にコーヒー豆の生産のための都市が建造。これはスペインの影響を受けたアンティオキア県の植民都市の特徴を持つもの。
トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観/ハンガリー
ハンガリー北東部のティサ川流域のトカイ地方。ここは「貴腐ワイン」と呼ばれる、ボトリティス菌によって糖度が高まったブドウで造られた甘いワインの発祥の地でもあります。トカイ産のものはアスーワインと呼ばれ、フランス国王ルイ14世が「ワインの王」と絶賛したというほどに品質が高いもの。
ここにはブドウ畑、農場、村落、ワインセラーなど、1000年に渡るワイン生産の伝統を現在に残しています。
キンデルダイク=エルスハウトの風車網/オランダ
オランダ南部ロッテルダムから南東約13kmの位置にあるキンデルダイク。古くからオランダの人々は浸水に悩まされており、農業のため排水するという行為は何世紀にも渡って行われました。その問題を解決するのが風車の建設だったのです。
キンデルダイクでは、現地に住む人々が排水と農業のために作り出した19基の風車が残っています。
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レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観/イタリア・スイス
アルブラ線・ベルニナ線は、スイス南西部のグラウビュンデン州からイタリア北西部のロンバルディア州ソンドリオ県を結ぶ路線。ここはアルプスの高地を越えるために当時としては最高レベルの技術によって建造され、20世紀初頭に開業したアルプス越えの鉄道が今でも現役で使用されています。
これらは古くからの課題だったアルプス越えを実現したもので、卓越した土木技術の結晶でもありました。
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リドー運河/カナダ
リドー運河は、1832年にカナダの首都オタワ市とオンタリオ湖畔のキングストン市を結ぶ202km運河。もともとは独立したばかりのアメリカから当時イギリス領であったカナダを防衛するという軍事目的で設立した運河のひとつ。
1832年に開通し、今でも現役で使われている運河としては北米最古。蒸気船のために設計された運河はヨーロッパの建築技術を利用して建造されたもの。
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ビスカヤ橋/スペイン
ビスカヤ橋は、イベリア半島の北部、ネルビオン川の河口に作られた運搬橋。これは港湾都市ビルバオの入口にあたる場所に作られたインフラでもあります。
ここは世界最古の運搬橋で、建築家アルベルト・パラシオによって設計され、吊り下げられたゴンドラで人や車を運搬するというもの。この運搬橋はその後、ヨーロッパやアメリカ、アフリカなどの運搬橋のモデルとなりました。
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ヴァールベリのグリメトン無線局/スウェーデン
ハッランド県ヴァールベリ市の郊外に位置するグリメトンには超長波送信局があり、これは1922〜1924年に建造された、大西洋を横断する初期の無線通信の記念碑的存在で、非常に状態が良いもの。
ここは建築家カール・オーケルブラッドが設計した新古典主義様式の建造物で、エンジニアのヘンリック・クルーガーが127mものアンテナ鉄塔を建造し、これは当時スウェーデンで最も高い建造物でした。
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世界遺産マニアの結論と感想
産業遺産は観光地でない場所もあり、マイナーな遺産も多く存在しますが、実はそれぞれに現代に語り継がれるべき理由があり、まさに世界遺産となるべき物件でもあります。工場から鉱山まで幅広いジャンルの産業遺産があるのが魅力です!ぜひディープに楽しんでくださいね。
※こちらの内容は、世界遺産マニアの調査によって導き出した考察です。データに関しては媒体によって解釈が異なるので、その点はご了承下さい。